『佐々木俊尚のネット未来地図レポート』の2009年3月23日号(vol.032)をアップしました。現在配信中です。
タイトルは「モバイル動画市場でまたもガラパゴス化してしまう日本」。
以下、書き出しの部分を紹介します。
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【いま何が起きているのか】
モバイル動画は現状ではケータイのメインコンテンツではない。なぜなら帯域の問題があるからだ。たとえば現行のiPhone 3GでYouTubeの動画を見ようとすると、帯域をセーブするために非常に劣った画質になってしまう。高画質でYouTubeを見るためには、無線LANに接続させる必要がある。
ネットのさまざまなアプリケーションやサービスが高度になり、リッチになっていくのに従ってこうした帯域の問題は深刻になっている。これは「ネット中立性」の議論にもつながっている。ネットを維持するためのコストをブロードバンド事業者だけに負担させるのか、それともコンテンツやサービスを提供しているグーグルのような企業もそのコストを担うべきなのか、という世界的な議論だ。
モバイル分野でもこのネット中立性の問題は重要だ。ただ現状では、その議論の中心地であるアメリカにおいてはモバイル動画がほとんど普及していないため、あまり問題にはなっていない。たとえば調査会社のニールセンによると、アメリカでは2007年第3四半期でモバイル動画サービスに加入していた人はモバイルユーザー全体の6.4%。2008年第3四半期でも7.3%とわずかしか増えていない。おまけにこの2008年Q3で、モバイル動画サービスに加入している人のうち月に1回以上サービスを利用した人は26%しかいないという低調ぶりだった。
しかし徐々に状況は動き始めている。アメリカでは今年テレビがデジタル化され、日本でも2011年に完全デジタル化が行われる。そこで空くVHS/UHFの帯域を利用して、モバイル向けの新たな放送を行うという動きが急ピッチで進んでいるのだ。
日本国内では、いまのところ2つの規格が存在しいてる。クァルコムのMediaFLOと、テレビ局や広告企業などが参加する「ISDB-Tマルチメディアフォーラム」が押しているISDB-Tmmだ。
どちらも3Gのケータイ帯域ではなく、VHS/UHFのテレビ電波帯を使う。前者は電波利用効率が非常にインテリジェントに考えられていて、画質はきわめて良い。また空いた帯域を利用して映像データをケータイ端末のメモリーに保存しておく蓄積型配信サービス「クリップキャスティング」が利用できるため、電波の届かない場所でも動画コンテンツを楽しめる。またワンセグと同じようなデータ通信機能もある。ただ基本的には無料で放送されているワンセグとは異なり、ケータイ画面で加入して有料課金するモデルとなる。
MediaFLOはすでに沖縄で実証実験も開始している。
一方、後者のISDB-Tmmは現行のワンセグの後継規格で、ワンセグと互換性があるのが特徴。またワンセグではできなかった蓄積型配信サービスも実現できる。
このどちらが日本では優勢なのか。現状では圧倒的にISDB-Tmmだ。ケータイキャリアに関していえば当初はNTTドコモがISDB-Tmm、KDDIとソフトバンクがMediaFLOという陣営だったが、昨年11月にソフトバンクがMediaFLOを離脱して、ISDB-Tmmに移った。ISDB-Tmm陣営にはテレビ局や広告企業なども参加しているため、コンテンツから広告、ケータイキャリアまでが垂直に接続されたことになる。一方のMediaFLOには残念ながら今のところKDDIしか賛同者がいない。
総務省はアナログ波の停波にあわせて、2011年にケータイ向けの「次世代マルチメディア放送」を実用化することを決めており、今後規格を一本化させる可能性がある。このまま進めば、採用されるのはISDB-Tmmだろう。
【これからどうなるのか】
しかしアメリカに目を転じると、状況はまったく異なる。日本はまたも、このモバイル動画の分野でもガラパゴス化する可能性が急速に高まっているのだ。
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タイトルは「モバイル動画市場でまたもガラパゴス化してしまう日本」。
以下、書き出しの部分を紹介します。
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【いま何が起きているのか】
モバイル動画は現状ではケータイのメインコンテンツではない。なぜなら帯域の問題があるからだ。たとえば現行のiPhone 3GでYouTubeの動画を見ようとすると、帯域をセーブするために非常に劣った画質になってしまう。高画質でYouTubeを見るためには、無線LANに接続させる必要がある。
ネットのさまざまなアプリケーションやサービスが高度になり、リッチになっていくのに従ってこうした帯域の問題は深刻になっている。これは「ネット中立性」の議論にもつながっている。ネットを維持するためのコストをブロードバンド事業者だけに負担させるのか、それともコンテンツやサービスを提供しているグーグルのような企業もそのコストを担うべきなのか、という世界的な議論だ。
モバイル分野でもこのネット中立性の問題は重要だ。ただ現状では、その議論の中心地であるアメリカにおいてはモバイル動画がほとんど普及していないため、あまり問題にはなっていない。たとえば調査会社のニールセンによると、アメリカでは2007年第3四半期でモバイル動画サービスに加入していた人はモバイルユーザー全体の6.4%。2008年第3四半期でも7.3%とわずかしか増えていない。おまけにこの2008年Q3で、モバイル動画サービスに加入している人のうち月に1回以上サービスを利用した人は26%しかいないという低調ぶりだった。
しかし徐々に状況は動き始めている。アメリカでは今年テレビがデジタル化され、日本でも2011年に完全デジタル化が行われる。そこで空くVHS/UHFの帯域を利用して、モバイル向けの新たな放送を行うという動きが急ピッチで進んでいるのだ。
日本国内では、いまのところ2つの規格が存在しいてる。クァルコムのMediaFLOと、テレビ局や広告企業などが参加する「ISDB-Tマルチメディアフォーラム」が押しているISDB-Tmmだ。
どちらも3Gのケータイ帯域ではなく、VHS/UHFのテレビ電波帯を使う。前者は電波利用効率が非常にインテリジェントに考えられていて、画質はきわめて良い。また空いた帯域を利用して映像データをケータイ端末のメモリーに保存しておく蓄積型配信サービス「クリップキャスティング」が利用できるため、電波の届かない場所でも動画コンテンツを楽しめる。またワンセグと同じようなデータ通信機能もある。ただ基本的には無料で放送されているワンセグとは異なり、ケータイ画面で加入して有料課金するモデルとなる。
MediaFLOはすでに沖縄で実証実験も開始している。
一方、後者のISDB-Tmmは現行のワンセグの後継規格で、ワンセグと互換性があるのが特徴。またワンセグではできなかった蓄積型配信サービスも実現できる。
このどちらが日本では優勢なのか。現状では圧倒的にISDB-Tmmだ。ケータイキャリアに関していえば当初はNTTドコモがISDB-Tmm、KDDIとソフトバンクがMediaFLOという陣営だったが、昨年11月にソフトバンクがMediaFLOを離脱して、ISDB-Tmmに移った。ISDB-Tmm陣営にはテレビ局や広告企業なども参加しているため、コンテンツから広告、ケータイキャリアまでが垂直に接続されたことになる。一方のMediaFLOには残念ながら今のところKDDIしか賛同者がいない。
総務省はアナログ波の停波にあわせて、2011年にケータイ向けの「次世代マルチメディア放送」を実用化することを決めており、今後規格を一本化させる可能性がある。このまま進めば、採用されるのはISDB-Tmmだろう。
【これからどうなるのか】
しかしアメリカに目を転じると、状況はまったく異なる。日本はまたも、このモバイル動画の分野でもガラパゴス化する可能性が急速に高まっているのだ。
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