8月23日午後5時配信の有料メルマガ 「ネット未来地図レポート」は105号。書店の未来について2回にわたって連載した前シリーズに引き続き、今度はブックデザインの将来可能性について論考していきます。電子書籍時代にブックデザインはどう変容するのか?
■本文より抜粋で紹介
私は4月に刊行した『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー21)の中で、ケータイ小説の話を紹介しました。ケータイ小説ポータルサイト大手の魔法のiらんどによると、ケータイ小説の読者は自分の好きな作家の小説が紙の本として出版されると、ひとりで4冊も買うケースがあるといいます。
1冊目は自分が読むため。2冊目は保存用。3冊目は友人に貸すため。そして4冊目は部屋に飾っておくためのもの。
読者の女性たちは、小説の中身はとっくにケータイの画面の中で読み終えています。連載中から作家とつながり、プロットの展開に一喜一憂し、作家との間で登場人物のキャラクターについて話が盛り上がり、そうして作家と一緒になって小説の大団円に向けてともに歩んでいきます。彼女たちにとって小説の完結は単なる「一冊の本を読み終えた」という個人的な営為ではなく、みんなでゴールを迎える祝祭の瞬間のようなものなのです。
だからその小説が完結後数か月経って、ついに紙の本として刊行されるというのは、第2の祝祭にほかなりません。魔法のiらんどのプロデューサー、遊佐真理さんは以前、私にこう語ってくれました。
「紙の本の購入者層と、ケータイで読んでいる読者層はかなりかぶっていると思います。なぜなら『本が出ましたよ』とサイトでアナウンスした本としない本では、した本の方が圧倒的に売れているからです」
「紙の本を買うのは、そのケータイ小説のファンにとっては宝物を手に入れるということ。だからケータイ小説のサイトではいつでもどこでも読めるようにシンプルなブック機能を実装させているのとはうってかわって、紙の本ではおもいきりイラストやタイトルを凝った作りにしているんです。ほとんどがハードカバーですし。たとえばある本では、作家が死別した夫との話を書いているのですが、その中でイラストは思い出の海の写真をモチーフにしてもらい、亡くなった夫の文字を題字としてそこにかぶせるような凝った作りになっています。これはつまり、好きな読者にとっての宝物でもあるのです。作家さんの夢を叶えてあげているという、ファンの方々のそういう気持ちをうまくすくい上げようとしているんです」
ケータイ小説の世界においては紙の本は作家とのエンゲージメントの証となっているということなのです。これは音楽でいえば、ライブコンサートで販売されるTシャツやグッズ類と同じ意味合いをもっているということではないでしょうか。言い換えれば、ケータイ小説においてはメインコンテンツは「ケータイの画面で読む小説」であり、紙の本はサブコンテンツであるという逆転現象が起きているといっていいでしょう。
文藝春秋発行の文芸誌『文学界』2010年1月号では、作家の平野啓一郎さんと東大の西垣通教授、批評家の前田塁さんが書籍の未来について対談し、その中で西垣教授が電子書籍のデジタル配信によって作家と読者のマッチングモデルが変化することで、新たなモデルが出てくるかもしれない、ということを話しています。
■今週のブックマークは、以下のアップルの新しいテレビサービスの話など計4本。
アップルの新しいテレビ機器「iTV」が来年早々にもアメリカで発売されるようです。このiTVは99ドルという低価格もさることながら、AppStoreとテレビが融合するというところに最大のポイントがあります。AppStoreで販売・配布されるアプリによって、テレビの視聴スタイルが今後どんどん多様化していくでしょうし、コンテンツ配信側(番組を作る側)も番組をアプリ化させることで新たな見せ方、あるいは視聴率に変わる新たな広告効果測定方法を開発していける可能性が拓けてきます。
アメリカではケーブルテレビ会社が無料でSTB(セットトップボックス)を配布しているため、iTVの99ドルをどうやって視聴者に買ってもらうのかという課題もあります。将来的には、グーグルがソニーと組んで取り組んでいるようにテレビそのものにiTVの機能を内蔵させる方向へと進むかもしれません。アップルのリンゴマークのついた大画面テレビが発売されれば、日本でも購入する人はたくさんいそうですしね。
■業界も視聴者も「iTVがすべてを変える」=Digg創業者【湯川】 : TechWave
http://t.co/E5Yir0X
■いかがでしょうか。今回は全文で約8500文字。
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